会長挨拶

原子衝突学会会長 渡部直樹
原子衝突学会会長
渡部直樹

本学会は1976年に設立された原子衝突研究協会が母胎となり,2012年にその活動をさらに周辺分野に広げ認知度を向上させる等のねらいから,「原子衝突学会」として再出発しました。「原子衝突」という名称は会の発足当初から使われており,設立当時の多くのメンバーが原子や原子イオンの衝突(collision)研究を中心に据えていたことに由来しています。現在もその名称を継承してはいますが,今日,本学会のカバーする学問領域は厳密な意味での原子衝突に収まらず,“原子”は光子,電子,分子,イオンとも置き換えられ,“衝突”はむしろ相互作用,ダイナミクス,過程とした方が実際を反映しているといえます。また,衝突の相手は気相の粒子に留まらず固体表面や液体である場合もあります。そう捉えると,本学会が対象とする物理・化学現象の裾野の広さが想像できるかと思います。いくつかの研究対象例は本学会HPの「当会について」に書かれていますので,是非ご覧下さい。会員の研究に対する動機も,純粋に物理・化学素過程を楽しみたい,自然界で実際に起こっている複雑な現象を理解したい,産業も見据えた応用に結びつけたい,もしくはそれらを複合的にやってみたいなど様々です。とはいえ,会員には気相孤立系のダイナミクスを研究の原点としている研究者が多く,そのあたりが当学会の性格を特徴づけていると思います。多くの自然現象は複雑で,いわゆる孤立系で見られるきれいな素過程を積み上げていくだけでは紐解けるものではありません。しかし,できるだけ素過程から理解しようとする科学的アプローチがあってこそ,新たな発見の糸口が見つかるのだと思います。手前味噌ではありますが,本学会の研究者のレベルは高く,特に高度な実験技術は他のどの学問分野にも引けをとりません。こうした長所を最大限に活かし学会内外で新たな人脈を築き,常に新しいことを志向することができれば,これまでにない新しいサイエンスを創成する力が本学会にはあると信じています。広い意味での原子衝突の研究は,広範な学問領域に枝葉を延ばすことができます。みなさん,是非,本学会に参加して新たなことに挑戦してみませんか?

2024年 4月
会長 渡部直樹
(北海道大学)


ページトップへ